農業の現場では、不揃いやサイズが合わないなどの理由で「規格外」と見なされる野菜がある。
味や安全性に問題がないにもかかわらず、市場では極めて安価で取引されるか、利用されないまま廃棄されることも少なくない。通常の流通では、農家の収益につながりにくく、農業経営を不安定にする一因にもなっているそうだ。
「規格外野菜に新たな価値を与えられないか」「農家が安心して作り続けられる仕組みをつくれないか」
と、「未利用の野菜」を活用しようと立ち上がった人がいる。

八尾市で農産物の宅配・移動販売「どっこいしょ」を営む、80831(ヤオヤサイ)代表の藤原亮介さんだ(写真上)。
除草、土づくりから肥培管理、剪定や受粉、摘果など、農産物を収穫するまでに多くの作業工程がある。経験と科学的根拠に裏打ちされた技術により、安全・安心で美味しい商品となる。
にもかかわらず、少し形が悪い、色ムラがある理由だけで価値を失ってしまうのは、本当に悲しい。農家の現場を直視する藤原さんならではの視点だ。
そこで藤原さんは、未利用野菜を活用した「温めずにそのまま食べられる野菜料理の缶詰」『Vege-Can(ベジカン)』の開発に取り組んでいる。

Vege-Can(ベジカン)が解決する、もうひとつの社会課題が「防災」。
藤原さんは農政部門の大阪府職員だった。在職中、平成30年台風21号の被害を目の当たりにした。「食」の支援が届かない現実に無力感を抱いた。
一人の人間として、もっとできることがあるんじゃないかと、地元の消防団に入団し、自治体災害コミュニティに参加して災害リテラシーを高め、全国の災害現場で活躍する仲間とつながった。防災士の資格も取得した。

「一人の人間として、八百屋として、災害時にできることは何か」
この経験と思いを、今回のVege-Can(ベジカン)が解決する。
災害時の食事は炭水化物に偏りがち。避難所で配られる食事の多くは、おにぎりや菓子パン、アルファ化米などが中心で、野菜やたんぱく質が不足しやすい現状があるからだ。
災害時に見落とされがちな「野菜不足」という課題を、農家や福祉施設、さらに飲食店とも連携し、「地域で育った野菜を、地域で加工し、地域に備える」新しい非常食の形を提案する。

Vege-Can(ベジカン)は、防災と農業、2つの社会課題を同時に解決する取り組みとして生まれた。
缶詰にすることで、長期保存が可能となり、災害備蓄として利用できるだけでなく、本格イタリアンの味を楽しむことができ、非常時のみならず、ギフトやごちそうとしても利用できる。
野菜の缶詰と「できる」をかけてVege-Can(ベジカン)と名付けた。
各事業者との協力を取りつけて整えたプロジェクトは、2月5日に開かれた「第5回大阪イノベーショングランプリ」でも高く評価。見事グランプリを受賞した。

「防災、フードロス、地域農業といった複数の社会課題を同時に解決しようとする取り組みに、多くの方が共感し、評価してくださったことをとても嬉しく思っています。
『世の中にまだない商品』ということは、それだけ技術的にも簡単ではないことを意味します。それでも、応援してくださる皆さんの期待に少しでも早く応えられるよう、チーム『Vege-Can』の仲間たちと知恵を出し合いながら、一歩ずつ前に進んでいきたいと思います」と、受賞の喜びとともに気を引き締めるように語る藤原さんだ。
非常食でありながら、「非常時のためだけの味」ではなく、日常でも食べたくなる“ごちそう”として仕上げることを大切にしている。
「災害時にも温めずにそのまま食べられる」「未利用野菜を使用し、フードロスを削減できる」「缶詰の提供を通じて農業や食を消費者に伝えることができる」
初年度は、旬の野菜の特性を活かした5種類の商品を展開予定。試作品は商談会での試食アンケートでも高評価を得た。常食でありながら「日常でも食べたい」という声が多く寄せられている。
プロジェクトをさらに具現化しようと、3月15日まで「CAMPFIRE」でクラウドファンディングを展開している。
▼クラウドファンディングページ
https://camp-fire.jp/projects/845911/view
すでに多くの支援が寄せられていて、目標金額を突破した。現在は、ネクストゴールの100万円をめざしている。